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いつ織りあがるか予想もつかない絨毯のような事件
確か今から三週間前だったと記憶しています。昨年6月に拙ブログでも触れた 共和國内におけるイスラーム女性の装束 (ブルカ、ニカブ)についての着用禁止法案が近日中に議会に提出されるという発表がありました。

その二日後のことです。偶然だと思われますが、仏蘭西西部のナント Nantes (ナントの勅令のナントです)でニカブ着用のまま車を運転した31歳の女性が視界をさえぎるという理由で交通違反で摘発されました。罰金は22ユーロ。ところが、この女性は即刻、人権侵害を受けたとして告発しました。

ここで摘発現場。ニカブというイスラーム女性の装束は両目の部分だけ長方形に穴の開いた頭からすっぽりかぶると足のくるぶしまですっかり隠れる黒い布で、昭和生まれの日本びとにわかりやすく例えるならば「真っ黒けのオバQ」のようなシルエットの装束です。その日、この装束で運転している自動車を停めた警官は運転者に対し「あなたの国の事情はわからないが、ココは仏蘭西なので安全運転を心がけて欲しい」とまず言ったそうです。ところが、その言葉を聞くなりその運転者はニカブを外しつつ「私は仏蘭西生まれの仏蘭西育ちの欧州人です!」と名乗りをあげたとのこと。

この方です。手前の真っ黒け。
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AFP/Alain Jocard

さて、ここから先がニカブ着用でも、交通違反でもなく、別のベクトルの問題となります。

というのも、この欧州系仏蘭西びとである女性はイスラームに改宗してのニカブ着用でありますが、ご夫君は仏蘭西国籍を持つ34歳のアルヂェリアびとで4人の妻との間に12人の子供を持つ父親です。宗旨はもちろんイスラームですが原理主義の急進派にあたるそうです。調査によればテロリストではないとのこと。
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Photo par Franck Dubray

早い話、一夫多妻の家庭で、この男性の四人の妻は二人がマグレブ系アラブびと、二人が欧州系仏蘭西国籍女性です。仏蘭西共和国の法律では一夫多妻は認めていないので、調査結果次第でこのアルジェリアと仏蘭西の国籍を持つ夫君から仏蘭西国籍を剥奪するという政府側の見解も発表されました。

翌週になり、夫妻はナントの裁判所に弁護士と共に出頭した夫妻でしたが、夫は一夫多妻であることを明言、国民の信教の自由を政府が傷つけたと主張し、交通違反で摘発された彼の妻である仏蘭西生まれの仏蘭西育ちの欧州人♀は自らは彼の愛人であり、一夫多妻のうちのひとりではないと発言したことで夫婦の考えが異なると世間が推察するに至りました。妻の言い分は共和国では一夫多妻を認めていなくても愛人は公認されているし、愛人の立場の女性が産んだ子供に生活手当が出ているのだから、自分もシングルマザー家庭としての諸手当をもらう権利があるとのこと。彼女は愛人という主張をしても、どうも彼女の自宅から30mほどの別の家にもうひとりの彼の欧州系妻が子供と住んでおり、近所の証言では夫だけでなくこの女性二人も往来しているとのこと。

傍観者としてこの事件を涼やかに眺めると、摘発された女性は生活保護を失いたくないので一夫多妻の自覚がないと主張しているように思われます。

こうなってしまうと、世間でもこの件は宗教、移民、社会文化、社会保障など各面から照らしあわされて論じ合われ、そう簡単に解決できないまま今日に至っています。この複雑な事件において最もスムースに話が進んでいると思われるのはブルカ禁止法案についてであり、おそらく今年7月には法が制定され、役所、学校など公共機関や電車内、路上、食堂を含む商店での着用が禁止され、初摘発時は注意、二度目の摘発から罰金(150~15000ユーロ)が科せられることになるだろうとのこと。


で、アルヂェリアびとの旦那さんは「マレーシアで一夫多妻は認められているのだからエエぢゃないか」と言ったそうな。・・・だったら、共和国法よりイスラーム諸法を優先する彼はイスラーム信者であることを掲げて四人の妻と十二人の子供と共にマレーシアに移住すればよいのではないですかねぇ。

2010年現在、仏蘭西共和国内の一夫多妻家庭は約20000家庭と推定されており、未婚関係のまま家庭を持つ男女が増えているだけでなく、市民婚の際の慣習証明など婚姻一ヶ月前に役所掲示板に新郎新婦の名が掲げられ、それを見た市民が新郎新婦の重婚や行いについて役所にチクれるという習慣も形骸化していることで問題が一層深刻になっているという指摘もあるようです。

さて、この諸問題、仏蘭西共和国内でどうなっていくのやら。絨毯に描かれる柄はどのようになるのか、あまりに糸が細く、極彩色でもあるので想像もつきません。

le 12 mai 2010, Achile

ブルカ法案について日本國ではイスラームからの反発必至という報道も流れているそうですが、仏蘭西国内ではまったく逆でイスラーム諸派からブルカ着用に賛同できないという意見が多々出ています。なぜまったく逆の話になってしまうのだろう?
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by ma_cocotte | 2010-05-12 00:47 | actualité 現時点の現場から | Comments(7)
Commented by JOYママ at 2010-05-12 10:49 x
こんにちわ!
今回の記事のブルカの話は、日本でも読んでいますので興味があります。欧州は元の植民地との関連もあって、複雑ですよね
なかなか「ほぼ 単一民族」にちかい日本では理解し難い事が多々あります。なので、↓の神父様のお話も含めて、非常に興味深く読ませて頂いてます、特に、パリでは無いですよね?地方都市からの情報部分が魅力ですね、
これからも、時々お邪魔させて頂きます、宜しく!
Commented by ma_cocotte at 2010-05-12 15:53
+ JOYママさま、
ブルカ法案と直後の共和国内における一夫多妻と社会保障の問題は
日々、新しい話が飛び出てくるし、そのテーマがひとつでは
ないので書きたいと欲してもなかなか書けません。
自分の力の無さを痛感することがこの件と同時進行です。

ココは日本語の仏蘭西観光案内では省かれている地方です。
Commented by 伊望 at 2010-05-14 09:28 x
ところでアルジェリア系フランス人はフランス生まれなのですか?それだったら、一夫多妻を是とし実施してしまうのはそら恐ろしいことです。それとも『とりあえず自己主張』みたいなフランス人メンタリティーのなせる業?
ともかく、そういうならマレーシアへ移住すればいいのにと思います(笑)

ヒジャーブはともかく、ニカーブとブルカは本当に特殊な服装ですね。普通のイスラーム神学に従えばヒジャーブで十分だと思いますが・・・率直に言ってニカーブとヒジャーブが広まっている地域は産油国を除けば女性の地位が低く、部族法とイスラム法の区別が付かない人が殆どの地域のように思えます。

ニカーブを改宗者が着るということの気が知れませんが、どの宗教にも共通する改宗者の熱狂ですね。

こういった問題そのうち日本でも起こるのでしょうかね?
例えば小中学校給食でムスリム用の給食を出せとか、水泳の時間に出させないでくれとか、スカーフ着用問題とか・・・
フランス以上にこういった問題に経験のない日本、本当に右往左往しそうです。
Commented by ma_cocotte at 2010-05-15 05:23
+ 伊望さま、
彼の4人の妻のうち二人はマグレブ女性で、アルジェリアと仏蘭西を
往復する商売をしているらしいです。
以前、両国籍のアルジェリア人から聞いた話では祖父母4人の
うちひとりが仏蘭西国籍を持っていれば仏蘭西国籍取得権が
あるそうです。彼はおそらくその条件で仏国籍を持っていると
思われます。共和国側も夫の仏国籍剥奪の可能性が高いことを
既に公表していますし。

私はどこの国であってもナンピトも遵法意識に欠けるなら長期滞在は
難しいという考えです。今回の件も彼らに限らないけれど
イスラーム諸法優先の自己主張で、仏蘭西国内のイスラームからも
彼らには納得いかないという声がかなり出ています。当然ですよねぇ。

当局の発表では男性はイスラーム原理主義急進派ですが、テロの
意志はないとのことです。が、ニカブの下がイスラームに改宗した
欧州女性というのがなんとも呆れると言うか。これぢゃカルトです。

続きます。
Commented by ma_cocotte at 2010-05-15 05:25
+ 「小中学校給食でムスリム用の給食を出せ」は日本國でも近未来
あると思います。戒律のない人が戒律ある立場に合わるべきだと
押してくるかと。婦女子については外来医の指定もありますね。
欧州においてこれから数年は例のラマダンが最も日の長い季節の
一か月になるので緊張します。もちろん耐え忍ばれる方々には
同情しますけれど、暴れる方々には・・・_| ̄|○
Commented by siojake at 2010-05-15 21:18 x
これぢゃカルト、まさにそんな香りが漂ってますよね。

先日自転車選手のロンゴさんが
「自分のオリジンの文化は大切、でも住んでいる場所の文化に敬意を払う事も同様」、とTVのトーク番組でこの話題に触れたときに仰ってた。
このご意見って普通の仏人の持つ一番一般的な感覚かな?と思いました。外国人としてここに暮らす我々にしたって、その意識はそれなりにありますからねぇ。

ところで。
ほぼ24時間近く日が沈まない夏の北欧だと、ラマダン中の方々はどうやってエネルギー補給するんだろう?長年の素朴な疑問です。
Commented by ma_cocotte at 2010-05-15 23:43
+ siojake さま、

この件、尾を引いていますね。
あまりに多面体でどこから触って最良の答えを見出せばよいのか
わからないくらい多面体。ガイジン庶民でナニゴトにも素人な
自分だったらどうするだろう?とこの件を見聞するたびにふと
思うけれど、両国籍男性の主張だけなら国籍剥奪で彼が文句を
言わずに生き抜ける環境に去ってもらうのが良いような気がする。
が、問題は女性ですね。どうもあきらかに生活手当目的でしょ?

北欧のミュヂュルマンは親戚訪問と称して南下するとか?
なんてね、ヴァカンスの間、欧州の親戚を訪ねまわる難民、
うらめしいざます。
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